9月26日~29日にかけて千葉・幕張メッセで開催されている「東京ゲームショウ2024」。ここでは、ドイツの開発会社btfによるインディータイトル「The Berlin Apartment」のレビューと開発陣へのインタビューの模様をお届けする。
「The Berlin Apartment」はベルリンのアパートの一室を舞台に、4つの時代の物語を追体験していく1人称視点のアドベンチャーゲームだ。とあるアパートに暮らしているそれぞれの時代の人々を通して、1世紀にわたるベルリンという都市の歴史を見ていくというユニークかつ壮大なゲームになっている。
今回出展された試遊版では、ベルリンの壁越しにカップルが愛を育む1989年、ユダヤ人の映画館のオーナーが暮らしていた1933年、そしてアパートをリノベーションしようとしている家族がいる2020年という3つの時代の一端をプレイできるようになっていた。
最初にプレイできる時代は1989年。あるとき、主人公の男性は窓から自室に飛び込んできた紙飛行機を見つける。それはベルリンの壁の向こう側に建つ建物から飛んできたもので、そこには女性からのメッセージが書かれていた。興味を持った青年は、返事を書いた紙で紙飛行機を折り、彼女の部屋に向かって飛ばすという危険ながらロマンチックな始まりになっている。
映像はコミック調でありながら1人称視点ということもあってか、どこかリアリティーがあり、この時点でゲームの世界にすっと入り込むことができた。特に目を引いたのが、紙飛行機を折るシーンだ。折り紙を折るとき、しっかり折るために手で折り目を抑えてアイロンをかけるようにすーっと動かしたりすると思うが、こうした動作がゲームの中でしっかり再現されているのだ。
非常にリアル感があって、スティックとボタンで操作しているはずなのに、実際に折り紙を折っているように感じることができた。ちょっとしたことだがけっこうインパクトがあったので、この部分はぜひとも実際に体験してみてほしい。
風景が変わって時代は1933年に。部屋の作り自体は同じだが、家具などが変わると別の部屋のようでなかなか面白い。一方で、窓からはハーケンクロイツが見え、セピア調の映像も時代の影を感じさせるものになっていた。
主人公はユダヤ人の映画館のオーナーで、アパートを去ろうとしているところから物語は始まる。ここでは、メモに書かれているものを探してスーツケースにしまっていくのだが、カメラをケースにおさめたり、パスポートをノートに挟んだりと、いろいろ工夫しないとうまく荷物がおさまらないようになっていて、けっこう苦戦させられた。このようなパズル的な要素も楽しめるようになっているのだ。
荷物をまとめている過程で、日記を通して彼がベルリンを去ろうとしている理由を垣間見られるのだが、過去の出来事がサイレント映画のような映像で展開されるなど、より1933年という時代を実感できる演出が随所になされていた。サイレント時代の傑作SF映画「メトロポリス」などのポスターが貼られていたりと、インテリアや小物類も非常に凝っており、こうした部分も見どころのひとつになっていると言えるだろう。
そして、とあるショッキングな出来事のあと、唐突に時代が変わって舞台は現代である2020年へ。そこでは男性が部屋を改装していて、彼は1933年の主人公が残したと思われる、とあるものを見つける。このように現代の主人公が過去の断片をいろいろ見つけることで、アパートの歴史が浮かび上がってくるとうい仕掛けになっているようだ。
ちなみに、今回の体験版ではプレイできなかったが、1967年も舞台のひとつでSF作家が主人公になるという。その作家が書いているSF作品と、東西分断の時代がシンクロするようなプレイヤーの想像をかき立てる内容になっているそうで、注目してほしいポイントのひとつとのことなので、こちらも楽しみにしておきたい。
同じ場所、同じ風景でありながら、室内の様子や街並みなどが時代ごとに変わっていくのを見るのは楽しく、思わず「あ、あそこがああなったんだ」と思ってしまうことだろう。つまり、古アパートの一室からベルリンという街の100年が見られるわけだ。
無論、ナチスや東西冷戦というものが見え隠れしており、ある種の影や重苦しい雰囲気も感じさせる。しかし、決してそれだけではなく、後述するインタビューで制作陣が語っているベルリンという都市の持つ魅力もまた存分に描かれており、いろいろな発見があることだろう。
今回の試遊版では個々の主人公たちの人となりや背景までは分からなかったが、実際のプレイでは「なぜその人たちが、このアパートにいたのか」といった、主人公たちの深い部分も知ることができるようになっているとのこと。決して万人受けするタイプのゲームではないが、どのような物語が展開され、どこに着地するのか予想もつかないだけに非常にミステリアスで、もっとプレイしてみたいと思わされた。気になる人はぜひ会場に足を運んでみてほしい。
開発を手掛けるHans Böhme氏とFlorian Köhne氏にインタビュー
プレイのあと本作の開発者であるbrtのHans Böhme(ハンス・ベーメ)氏とFlorian Köhne(フロリアン・ケーネ)氏に話を聞くことができた。
両氏によると、本作を制作するにあたって各時代のベルリンについてかなり調べたという。たとえば、1989年のアパートでは窓から鉄塔が見えるのだが、これは実際にあるもので、ベルリンの壁があった状態では本作の舞台となっているアパートのような場所から、どのように見えたのか調査するなど、風景も実際の時代背景に合うように作っているそうだ。
それぞれの時代背景の整合性を取るのも非常に大変だったというが、一方でドイツの歴史というものを改めて知ることができて、どんどん楽しくなっていった部分もあったとHans氏は振り返る。
なぜ、ベルリンという都市を舞台にしたのかという疑問にも答えてもらった。Hans氏によると、ベルリンはもともと沼地で多くの人が住むようなエリアではなかったという。しかし、人を引き付ける不思議な魅力があったのか、時代とともに発展していき、第二次世界大戦で荒廃する以前も文化的な中心地として栄えていたそうだ。大戦によって多くの建物とともに当時の文化も多くが失われたが、かつてのベルリンの精神は今に受け継がれており、ゆえに現代のベルリンは芸術が盛んで先進的な人たちを惹きつけてやまないのだという。
そうした歴史を持つだけに、ドイツの人たちにとってベルリンはもはや「ベルリン」という独立した存在であって、単なるドイツの一部ではないという感覚があるとHans氏らは言う。そうしたドイツ人のベルリンへの思いが、本作には込められているのだろう。悲劇的な歴史を持つベルリンだが、それだけではない文化的な彩りを持つ都市でもあり、「そうした側面を感じ取ってくれたらうれしい」と、Hans氏とFlorian氏も語っていた。
本作の舞台になっているような、1世紀もの歴史を持つアパートもベルリンでは珍しくないとのこと。開発陣も歴史を感じるような古いアパートに住んでいたことがあり、その時に「昔、この部屋で何か事件があったんじゃないか」「大家族が住んでいたのかも」といった空想が膨らんでいったそうで、そういった体験もアイディアの源泉になったと明かしてくれた。
コミック調のビジュアルも本作の特徴のひとつ。制作チームが得意としている領域であることも大きかったというが、ストーリー的な意味でもあまりリアルにつくり込んでしまうと、かえって時代の移り変わりなどが表現しづらいという難点があったという。しかし、コミック調にすることで、時代の移り変わりを強調することができ、各時代の人たちの人生の場面場面をプレイする人にわかりやすく体験してもらえるものになったとHans氏は語った。
また、上記のレビューでも言及した折り紙のシーンだが、やはり非常に大変だったそうで、すべての3Dモデルを制作して実際に折り曲げるという作業を3Dソフトの中で実行してみたところ、紙の重なりなどがかなり複雑な処理になってしまったという。しかし、折っているという体験は流れるように感じさせる必要があり、そのために試行錯誤をしたと語るなど苦労のあとがうかがわれた。
「ゲームとしてはニッチだが、そうしたゲームを楽しみにしてくれている人たちのため努力しているので、ぜひブースに来てこのゲームを楽しんでくれることを心から願っています」というHans氏とFlorian氏。「ヨーロッパの歴史を体験できるゲームはなかなかないと思うので、日本の人たちにヨーロッパの文化的な部分を感じてもらえたらうれしいです」とメッセージを送った。
ちなみに、1回のプレイ時間は5~6時間くらいとのことで、誰でも気軽に楽しめるはず。現在、開発は3分の2くらいまで進んでいて、発売は来年の年度末くらいを予定しているそうなので期待しよう。
※画面は開発中のものです。
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