元テレビ東京アナウンサー・田口尚平さんが設立した番組制作集団「Gamchew(ガムチュー)」。エンタメ界におけるエキスパートが所属し、今年4月には魅力的なメンバーが多数加入した。田口さんと新加入の元TBSアナウンサー・宇内梨沙さんに、現在の活動内容や今後のビジョンについて語っていただいた。
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2020年3月に「大好きなゲーム実況をメインに活動していきたい」という理由でテレビ東京を退社し、新たな道を進み始めた田口さん。
局アナ時代から携わっていた「eスポーツ実況」を続けるかたわら、早稲田大学ビジネススクールに通い、MBA(経営学修士)を取得。その後22年に「Gamchew」を立ち上げ本格的な会社経営を開始。25年4月に新メンバーとして元TBSアナウンサーの宇内梨沙さん、元フジテレビアナウンサーの永尾亜子さんら9人を迎え入れ、新たな体制をスタートさせた。
コロナ禍に見舞われ「もう1年、テレビ東京にいればよかった」と後悔した(田口)
――まずは「Gamchew」を立ち上げた経緯を教えていただけますか?
田口:僕は退社後、eスポーツ実況やイベント・エンタメ番組の司会のほか、イベントの企画・運営に携わってきました。ありがたいことに多くのご依頼をいただくのですが、イベントやゲームの大会が開催される土日にどうしても仕事が集中するんですよね。ひとりでは捌ききれないので「だったら、頼りになる仲間たちとギルド(協同組合)のようなものを作ろう!」と思い立ったのがきっかけです。
――テレビ東京を退社されてからすぐ、コロナ禍に見舞われました。
田口:あのときは案件どころじゃなく「自分、死ぬのかな……?」と本気で思いました。「もう1年、テレビ東京にいればよかった」、と正直後悔もしました。ただ、その後はいわゆる「巣ごもり需要」があり、ゲーム業界には追い風になったので、それに付随するビジネスが拡大したのは不幸中の幸いと言いますか。
――退社後まもなく、早稲田大学ビジネススクールでMBAを取得されましたね。
田口:経済学者という肩書きでテレビ出演もされている、入山章栄教授の授業で「NFTでの資金調達をベースにしたアニメ作成のモデル」という内容で卒業論文を書いたのですが、実は現在、アニメスタジオでプロデューサー修行をしておりまして。実際にNFTを絡めたアニメを作れないか模索中です。
――「Gamchew」の事業としてもやっていきたいと。
田口:エンタメ全般をターゲットに面白いことをやりたいと思っているのですが、必ずしも「Gamchew」としてやっていきたい、ということはなくて。例えばアニメに特化した事業を行う会社や部署を、必要に応じて立ち上げてもいいのかな、と思っています。
私の得意なジャンルにフィットするような仕事を紹介してもらえるのがありがたい(宇内)
――宇内さんは「Gamchew」に所属してから1か月ほどになりますが、どのような経緯で携わることになられたのでしょう?
宇内:「Gamchew」さんには業務委託という形でお世話になっています。退社後は「どこにも所属せず、自分がやりたいことをどんどんやっていこう」という想いが強くて。というのも、私と同じように局を退社され、事務所に入った先輩を見ていると、どうしても「元アナウンサー」という部分を求められているのを感じましたし、フリーという形が一番自分に合っているんだろうな、と思ったんです。
そんなことを考えていたら、就活同期の田口から「自分の活動優先でいいから、一緒にやらない?」と理想的な形でお声がけをいただけたのがきっかけです。
――先ほどコロナ禍の話が出ましたが、宇内さんはこの5年をどのように感じていますか?
宇内:5年前はすでに番組を担当していましたが、当時は情報番組と報道番組の生放送だけで、番組収録もロケも全然なくて。つらい時期が続きました。ポジティブに考えれば、ここ4~5年でネットカルチャーがこれだけ普及したのはコロナ禍の影響が少なからずあったと思いますし、そのタイミングで事業を立ち上げた田口はさすがだな、と。
田口:いやいや(笑)。世の中にはたくさんのゲーム好きやアニメ好きがいますけど、「自称」とつくような人たちも多いんですよね。その点、宇内は「本当のゲーム好き」をアピールできているし、間違いはないと思い、スカウトさせていただいた次第です。
宇内:本当にありがたいです!
――一言で「ゲーム」と言っても、数多くのジャンルがありますが、お仕事をお請けするうえでのポリシーのようなものはありますか?
宇内:いくらアニメや漫画が好きだと言っても、すべてのジャンルに精通するのはほぼ不可能じゃないですか。それはゲームも同じじゃないかと。
所属しているメンバーそれぞれの守備範囲、得意なジャンルにフィットするような案件を紹介してもらえるのが大変うれしくて。現場もよろこんでくださると思いますし、クライアントと私たちの間にいい関係が築けていけると思うんです。
田口:わが社は「案件に携わる誰もが幸せになれるように」というのがモットーでして。例えば今で言うと、人気格闘ゲーム「ストリートファイター6」に関するオファーをたくさんいただくのですが、作品について勉強する時間が中々取れないんですよね。多くのご依頼をいただいているので、ぜひ全てお請けしたいところなのですが、満足いただける保証のない案件に関しては、きっちりとお断りさせていただくことにしています。
宇内:無理して請けても、見透かされてしまうんですよね。作品のことをよく知っていると、ファミリーのように接してくださるのですが、逆もまたしかりで。距離を置かれてしまうのはやっぱり嫌ですし、怖いです。
田口:配信中の生コメントはもちろん、配信アーカイブにも、中には心無いコメントが打ち込まれたりするじゃないですか。
「そんなもの、放っておけばいい」とは思うのですが、どうしても目や耳に入ってきてしまうんですよね。そうして精神的に参ってしまったタレントさんや司会者を知っているので、そこはケアしながら、という感じです。
熱意とスキルを両立できる「技術のあるオタク集団」を目指しています(田口)
――営業活動は田口さん主導で行なわれているのでしょうか?
田口:実はこちらから営業をかけることはほとんどなくて。ありがたいことに、いわゆる「売り手市場」のような状況でやってこられました。4月から所属者が増えたので、「こういう人材がいますよ」という形でどんどん提案していければと思っております。
――では、会社のポリシーを改めて教えてください。
田口:会社を通してとってきた全案件に対してマージンを取る……というのが事務所としては一番儲かるし、理にかなった方法かもしれませんけど、変に縛りを入れてもいいことないですからね(苦笑)。そうしたことの積み重ねで不信感を募らせて、最終的にチームから抜けられてしまったら本末転倒ですから。
宇内はビジネス映像メディア「PIVOT」でも活動の場を作っているみたいですし、ほかのメンバーにも同じように、自分のキャリアや能力が武器になりそうな案件は自分でどんどんとってきてもらえばいいと思います。
もし「どうしてもスケジュールが合わない、けれど絶対にこなしたい」という案件に対し「じゃあ〇〇さんなら対応できそうだから、行ってもらう?」みたいな感じで手助けができればいいな、と。「Gamchew」は“ギルド型組織”と謳っていますが、海外では割と主流のやり方なんですよね。
宇内:ゲームやアニメの世界っぽくて好きです(笑)。
――4月から加入した新メンバーについても触れていただけますか?
田口:僕と同じような元テレビ局のアナウンサーのほか、元々eスポーツなどを中心としたゲーム業界にいた人間で。後者のなかには、僕らのようなしゃべり専門ではなく、技術やアイデアを持って力になってくれる、頼りになるメンバーもいます。
宇内:私たちアナウンサーは司会進行としての能力を求められているから、前職で培ったスキルと、自分が好きなゲームとしてのスキル、両方の力が求められるんです。
田口:テレ東を辞めてから「局アナってすごいんだな」というのが改めて分かりました。タイムキープやカンペを読んでからの即座のアドリブ対応など「放送局が培ってきた技術なんだな~」というのを外に出たからこそ感じることができたと言いますか。
――現場では重宝される技術ということでしょうか?
田口:そうですね。大会の実況だけで技術を伸ばすことはなかなか難しいと思います。
宇内:確かに、生放送で習慣的にしゃべっていたのは大きかったですね。
田口:ウチは熱意とスキルを両立できる“技術のあるオタク集団”を目指しているので。宇内も報道ではすごく真面目にニュース原稿を読んでいるのに、「アトロク」(ラッパーのライムスター宇多丸さんがパーソナリティを務める、TBSラジオのワイド番組「アフター6ジャンクション」の略称)では「なんだこのオタクは!?」というトークをしているんですよ。このギャップが、彼女が愛されている理由のひとつだと思いますし、どんどん武器にしてもらいたいです。
宇内:頑張ります(笑)!

配信後「MCとして、あのときもう少しうまく立ち回っていれば……」と後悔することが多々あります(宇内)
――ところで宇内さんはアナウンサーになった理由のひとつに「ラジオで好きなことをしゃべりたい」というものがあったそうですね。
宇内:そうなんです。ラジオには「自分が好きなことを発信できる場」というイメージがあったので。
好きなことってずっと続けていられるんですよね。大学を出てあこがれの職業に就けたのですが、「大好きだったゲームに勝ることはないな」というのを10年間仕事してきて感じたんです。「好き」という気持ちを常に持ち続けていないと長続きしないかもしれないな、と感じていて。
一方で、「好き」を仕事にすることへの怖さもあります。「好きなんだからできるよね?」と、どうしても結果を求められてしまうんです。
田口:それはあるよね。局アナ時代、見たこともやったこともないスポーツの実況を任されたのですが、それまでまったく知識がなくて。100時間くらい勉強するのですが、ルールや選手の経歴、すべてゼロから学ぶのは正直苦痛でした。
でも大好きな「スプラトゥーン」なら武器をすべてそらで言えるし、選手のプレイを観ていて「ここで、こういう動きができるのはすごいことなんだ」というのもすぐ分かるんですよね。「仕事を振られたとき、苦労と思わずに時間を費やせることが天職」と思いますが、だからこそプレッシャーを感じることはあります。
――MCとしてお仕事される際に感じることはありますか?
田口:これは僕だけかもしれませんが、例えば新作ゲームの発表配信のような場で司会をし、コメントを追っていると、どうしても“つまらなそう”みたいな心無いワードが飛び込んできて。それを見るとゲームの制作に直接携わっているわけではない自分もすごく心が痛むんです。
宇内:私もそれは感じています。少なくとも番組のMCとして本作に関わっているという認識がありますし、帰宅してから「あのとき、もう少しうまく立ち回っていたら……」と考えることは私も多々あります。
田口:分かる。自己評価が80点だったとしたら、「あと20点あればみんな幸せになったかもしれないのに」と考えてしまうんですよね。
宇内:MCは、配信ならその配信全体の空気を良くも悪くも作ってしまう立場でもあるので、余計に責任を感じてしまうのかもしれません。
「自分のファンを増やす」というのは、ストリーマーとして何を置いても大事なことだと思います(田口)
――おふたりとも局アナ時代はテレビを“主戦場”として活動されていましたが、いまはどちらかと言うとWEBでの現場が多いと思います。
宇内:テレビとWEBでは視聴者層に明確な差が出ているのを感じます。
田口:テレビの場合は適当にチャンネルを変えていたら「あ、なんか面白いものやってるな~」みたいな感じで番組を観ている人も多いと思うのですが、テレビが“国”だとすると、WEBは完全に“村”ですからね。自分が好きなことをやっている村があって、時間が来たらそこに集まって同じ趣味を持った仲間たちとワイワイやる……みたいな感覚でしょうか?
村にいたほうが自分たちの気持ちもより高まるでしょうし、安心感のようなものも生まれると思うんですよね。
――現在の配信事情についても教えていただけますか?
宇内:私は、YouTubeの「ReHacQ−リハック−」チャンネルでゲーム配信者のドズルさんと対談した際に勧められたこともあり、ゲーム配信に強いTwitchをメインに配信しています。
プラットフォームの大きさもありますしYouTubeも考えたのですが「元局アナだから」という理由で来てくれる人、「ゲームが好きだから」という理由で来てくれる人が混在すると思いまして。私は後者の方に特に観ていただきたいと思ったので、敢えて別のプラットフォームで配信しようと決心しました。いまは配信頻度を少しでも高められるように日々頑張っています。
田口:いいなぁ、僕ももっと配信したいよ。
――気になっていたのですが、会社の代表として、田口さんは日々どのような業務をされているのでしょう?
田口:とにかく打ち合わせが多いですね。会計周りなど、総務のような仕事をしてくれている社員はいるのですが、アイデア出しは基本的に自分ひとりでやっているので。イベントの設定に関しては、企画から当日のスタッフの手配まで幅広くやっていますし、5本くらい走らせてしまったらほぼ打ち合わせで埋まってしまうんですよね……(苦笑)。
それに加え、先ほどお話しましたがアニメのプロデューサー修行で「週に2回はスタジオに行きたい」という目標を立てていますし。それと、子育てもありますからね……(早稲田大学在学中に結婚)。いくら時間があっても足りないです。
――配信する時間を捻出するのは相当大変そうですね……。
田口:でも、露出が増えないことにはクライアントにもエンタメファンにも見つけてもらえないですし。「自分のファンを増やす」というのは、ストリーマーとして何を置いても大事なことだと思いますし、コンスタントに配信している宇内は理にかなっているなあと。ChatGPTに代表されるAIツールの誕生で、「誰がしゃべるのか?」というのがより大事になってきていると思っております。
宇内:私は逆に田口のような武器がないから、ストリーマーとして日々やっているだけなので……。これまでのお話と、ちょっと矛盾してしまうかもしれませんが、好きなことだけやっていると、あっという間におばあちゃんになってしまうので(苦笑)、「人生設計も考えていかなければならないな」と思いながら活動しております。
あわよくば、もしこの先子供ができて「子育て配信者」になったとしても応援してくださる方がいたらうれしいです。私と同じようにゲームをプレイしている配信者がごまんといる中、自分の配信を選んで観に来てくださっているので、そういう人たちの気持ちを裏切らないような活動ができていければと思っています。
田口:その考え方を持って配信していれば、必然的に伸びていくんじゃないかな。
「本当に作品を好きな人が、やりがいを持って仕事できる環境づくり」に向けて邁進したい(田口)
――現在もギルドのメンバーを大募集中だそうですね。
田口:おかげさまでたくさんのご応募をいただいているのですが、現状「いちから育てる」という形では募集しておらず……。
先ほど「技術のあるオタク集団を目指している」とお話しましたが、「熱意はあるけど技術が伴わない」、または逆に「技術はあるけど作品愛が少し足りない」ような方も多くいて。中々難しいですね……。
僕の職業を鑑みて「アナウンサー畑」のほうが採用に有利だと思っている方がいるかもしれませんが、そんなことはないので、我こそはという方はぜひよろしくお願いします!
宇内:たくさんのご応募、お待ちしています!

――エンタメ系の司会というと、フリーアナウンサーの松澤ネキさんをイメージされる方も多いと思うのですが、宇内さんの理想の配信者・司会者像はありますか?
宇内:松澤さんはまさに私の理想とするところでして。誤解がないように申し上げますと“すごくいい歳の重ね方”をされているんですよね。自然体のまま、自分が大好きなアニメやゲームを語っていられるのを、羨望のまなざしで見ています。
――最後に、今後の活動におけるビジョンをお話いただけますか?
田口:イベント企画のアイデア出しやイベント運営に関してはともかく、キャスティングに関してはどうマネタイズしていくか? まだまだ模索中です。僕の中で一番大事なのは「本当に作品を好きな人が、やりがいを持って仕事できる環境づくり」だと思っていますので。会社が軌道に乗ったあかつきには、そこをメインに活動できればいいな、と思っております。
宇内:本件を含め、田口には本当にお世話になっているので、まずは“恩返し”ができるように事業に貢献していきたいです。そして、ゲーム配信に来てくださった方が「この人、元アナウンサーなんだ」、「ほかにこんな仕事をしているんだ」と興味を持ってもらえたら最高ですね。配信、頑張ります!
Gamchewコーポレートサイト
https://gamchew.com/
うないアナ、たぐちアナのオタク限界ラジオ(仮)
https://open.spotify.com/episode/1ON5MKvTbQ2uAnBwTzQX8T?si=h-ZsqGY-Sk27ao7H2G__EA
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