DMM.com POWERCHORD STUDIOが手掛けるiOS/Android用アプリ「EGGLIA~赤いぼうしの伝説~」。本作が生まれるまでの制作秘話から今後の展開に至るまで、制作総指揮を執った亀岡慎一氏にインタビューを実施した。
名作たちの生みの親・亀岡慎一氏のこれまでに迫る
――亀岡さんといえば多くのファンの方がいらっしゃると思いますが、まずはGamerの読者に向けて自己紹介をお願いいたします。
亀岡慎一氏:ゲーム業界のスタートはスクウェア(現:スクウェア・エニックス)で、初めて携わったタイトルが「聖剣伝説2」になります。僕が入社した時期が丁度スーパーファミコンへの転換期でもあったので、そこから「聖剣伝説3」「サガ・フロンティア」、そして「聖剣伝説 LEGEND OF MANA」などに携わってきました。がっつりと関わったタイトルは、主にこの4つですね。
――今なお多くの人を魅了し続ける、名作ばかりですね。
亀岡氏:どれも開発期間が長く大変な思いもしましたが、多くの人に愛してもらえる作品に仕上がり、その甲斐もありました(笑)。
――開発期間が長かったということですが、「聖剣伝説」シリーズなどはどのくらいの期間を要したのですか?
亀岡氏:具体的な期間は覚えていないのですが、僕がスクウェアに在籍していたのが約9年くらいなので、1本あたり2年くらいはかかっていますね。あの頃はまだ「ファイナルファンタジー」も毎年出ていたり、「ドラゴンクエスト」も2年に1本くらいのサイクルで開発されていたので、そう考えると2年は結構長いプロジェクトでしたね。
――今の開発環境と比べても、やはり昔のほうが長かったですか?
亀岡氏:長く感じますね(笑)。でも、「エグリア」も2015年の4月頃から動き始めて、今年の4月に配信できたので、2年弱くらいの開発期間が掛かっていますね。
――「エグリア」は卵による世界(ワールド)の拡張など、独自の世界観がしっかりと組み上げられています。こうした構想というのは、以前から持っていたのでしょうか。
亀岡氏:うっすらとですが、頭の中にはありました。僕が一番に描きたかったのは世界観で、それぞれ尖った個性を持っているキャラクターたちが一つの街に住んでさまざまな物語が展開されていく――いわば“ムーミン谷”のような世界を作りたかったんです。こうした世界観を一つ作れば、いろいろな遊ばせ方ができると思い立ってできたのが「エグリア」なんです。
――まさに亀岡さん独自の世界観が体現されている「エグリア」ですが、サービスを開始してからのユーザーさんの反応など、手応えはいかがですか。
亀岡氏:往年のRPGが好きな人だったり、こうした世界観が好きな人には楽しんでもらえていると思います。
――世界観の作り込みという部分に関わってくることだと思いますが、Twitter上などでキャラクターの誕生日を祝う投稿を目にしました。こうした登場人物たちの設定を考えるのも、大変な作業ですがとても重要なポイントですよね。
亀岡氏:誕生日の設定は、以前出したタイトルで、設定書にたまたま誕生日を記入しておいたんです。そうしたら、今でもその日が来るとお祝いしてくださるユーザーさんがいて、それがとても嬉しくて「じゃあ今回も入れよう!」という感じでしたね(笑)。
本作ではリアルタイムで時間が流れ、キャラクターに対してプレゼントを贈る機能もあります。なので誕生日を設定すれば、その日にプレゼントを贈ることで特別な会話が見れるようになり、一つの遊び要素として落とし込めると思いました。
――以前のゲームから培ったアイデアが、現在のゲーム開発にも活かされているんですね。
亀岡氏:そうですね。「エグリア」を作っているゲームスタッフの中にも、昔僕が作ったゲームを遊んでくれていた人がいて、今では現場の最前線に立っている時代です。そうした背景もあり、本作には自身が刺激を受けた要素を取り込んでいる部分があります。
――ほかには何か、アイデアとして取り入れた要素はありますか。
亀岡氏:僕自身としては、特に意識したものはありません。というのも、僕自身があまり最近のゲームを遊ばないので、自分が一番熱心にプレイしたスクウェア在籍時代の影響が大きく、また作品にも反映されていると思います。
――バトルシステムにサイコロを採用されていることが意外でした。こちらが取り入れられるようになった経緯や、エピソードについてお聞かせください。
亀岡氏:開発中はスタッフから「サイコロってどうなの?」というように賛否両論だったのですが、僕の中では最初からサイコロをゲームに取り入れるというのは決めていたので、その方向で進めていました。
「エグリア」では、ゲームデザイン上、同じマップを何度も何度も往復することになります。マップもシミュレーションゲームのように道筋の定まったマス目になっているため、同じスピードで移動するだけでは全く同じルーチンの繰り返しになってしまいます。こうした部分に緩急をつけるために、探索にサイコロを取り入れようと思いました。
――サイコロの採用に関して、開発内で議論があったのは意外でした。
亀岡氏:僕は不思議だったのですが、ほかのスタッフからは「1が出たらショックなので何かしらのサポートを加えましょう」という意見があったんです。
――出目に対するサポートというと、精霊のスキルなどですか?
亀岡氏:いえ、6が出たら大きく動けるのがメリットならば、1が出たらショックなので+αとして回復するようにしたらどうかというような、出目そのものに対するアイデアがありました。ただ、サイコロを使う以上“6が出たら嬉しいし、1が出たら悔しい”というのが醍醐味でもあるので、このアイディアの採用は見送りました。あとはやはり、サイコロは海外の人から見ても分かりやすく単純明快なので、余計な手は加えませんでした。
――昨今のゲームでは共闘や協力プレイなど、ほかのプレイヤーとの繋がりが半ば必須になっています。その中で、本作のオンライン要素は緩く作られていると思いますが、この辺りはどのような意図があったのでしょうか。
亀岡氏:その辺りは完全に僕の感覚ですね。僕の世代は、コーラを抱えながら明かりも点けず、一人で黙々とゲーム画面と向かい合うのが当たり前でした。その丁度後くらいに、友達の家に行って一緒にゲームを遊んだり、あるいは見たりする人が増えたと思います。なのでフレンドと一緒に何かをやったりというような要素は、最初からあまり考えていませんでした。
――その上で「エグリア」でのオンライン要素の落とし所がSNSを使ったマイルームのシェア機能というのは、今の時代にマッチした“らしい”形だと思います。
亀岡氏:SNSの活用やシェアなどは、若いスタッフの意見から生まれた要素ですね。僕では思いつかない部分でもあります。
遊んでいる途中で余計なこと考えさせたくない―だからこそ“落とし切り”という選択
――お話を聞いていて意外だったのが、いろいろな人の意見やアイデアが取り入れられているんですね。個人的なイメージでは、亀岡さんがビシッと道筋を立てて、すべての方向性を取り仕切っているのだとばっかり…。
亀岡氏:世界観に合う合わないなど、ゲームの幹となる部分やチェックなどはもちろん僕が決めています。でも、そこから枝をどう伸ばすか、どのように「エグリア」の世界を広げていくかというのは、ある程度自由に作ってもらっています。
先ほども言ったように、僕自身が新しいゲームをあまりやらないので、どうしても流行には疎くなってしまいます。その辺りはもう、若い人たちの感覚に任せてしまっていますね。ただ、グラフィックの部分に関しては僕がすべて目を通しています。元々絵描きなので、ここは譲れない部分でもありますね(笑)。
――「エグリア」の世界を作るのに欠かせないキャラクターたちですが、これだけ濃密な設定のキャラクターを数多く作るのはかなり大変だったのではないでしょうか。
亀岡氏:キャラクターについては、前からある程度イメージを持っていたので、それほど苦労はなかったですね。「こんなキャラクターの、こんな人がほしい」というような感じで。メインキャラクターについては、最初からある程度出来上がっていました。
――チャボの設定なども?
亀岡氏:そうですね。詳細な設定が組み上がった時期は定かではないんですが、昔から“レッドキャップ”というゴブリン族の設定を「面白いなー」と思っていたんです。ほかの作品でもよく普通のゴブリンと、彼らがより狂暴になったレッドキャップという種族が登場することがあると思いますが、調べてみるとこの“レッドキャップ”という名称は昔から存在していたりして(笑)。
――え!? そうなんですか? ファンタジー作品の共通のお約束みたいなものだと思ってました。
亀岡氏:あくまで民間伝承などの呼称としてですけどね(笑)。狂暴なゴブリンの中でもとりわけ凶悪で、トレードマークの赤い帽子は人の返り血でそうなった…とか、そういった設定が不思議と頭の中にずっと残っていたんです。
レッドキャップという名前は知っていてもこうした設定については知らない人が多かったので、チャボについてはそこにスポットを当てたいと考えたんです。ツノに関する設定もその時に思いつきました。狂暴な性格のままでは、お話が進まなくなってしまうので(笑)。
――“ツノがあった頃の凶悪なチャボ”の話があったら面白そうですね。
亀岡氏:本編のお話はわりとほのぼのとしていますが、裏にはそういったドロドロとした設定もあったりして。今のユーザーさんは、そういった部分も楽しんでいただけているので、そういったストーリーも出してみたいですね(笑)。
――キャラクターについては、すべて亀岡さんがデザインされているのでしょうか。
亀岡氏:9割くらいですかね。ほかの人に意見を聞いて、面白そうな案があったら「それ描いて!」とお願いすることはあります(笑)。
――精霊についても亀岡さんが?
亀岡氏:いえ、あれは違いますね。精霊というのを武器や防具の代わりに装備しようという意見は僕が最初から出しており、バトル担当者に「こういう仕様で精霊を出すから、何体かデザインしておいて」とお願いしていたのですが、あんなに一人ひとりしっかりとした設定が出来上がるとは思っていませんでした。
――精霊のプロフィールも、キャラクターに負けず劣らず濃いですよね。
亀岡氏:あれはスタッフがやりたくてやった形ですね。実は精霊についても、当初は探索中に同行するキャラクターのように吹き出しが表示されて喋るようになっていたんです。しかし、キャラクターも精霊も同時に喋るとなると画面がうるさくなってしまって……その時に提案を受けたのが、現在実装されている「スピリトーク」という形です。
――何だか、びっくりするくらい次から次へと新しいアイデアが浮かんできますね…(笑)。
亀岡氏:自由に作れる場を一つ提供したことが、良い方向に向かってくれたんだと思います。精霊を担当しているスタッフも、昔僕が作ったゲームを遊んでくれていて、ある程度世界観を理解してくれていたので、ほとんどすべて一任していましたね。
――開発の状況をお伺いしていると、かなり順調だったように思えます。特に苦労したことや行き詰ったことなどはなかったのでしょうか。
亀岡氏:苦労したことといえば、やはり料金形態についてですね。
――現在「エグリア」は落とし切りですが、基本無料タイトルとして出すプランもあったんですよね。
亀岡氏:はい。ほかのインタビューなどでもお答えしているように、「エグリア」は今のアプリゲームの主流である基本無料型でいくか、それとも有料の落とし切り型でいくか、最後の最後まで悩んでいたんです。基本無料の場合は、タチオンやテカテの畑の数を増やせるようにするなど、細かな拡張機能の部分を課金の対象にしようと考えていたんです。
――その風向きが変わったのはいつ頃から?
亀岡氏:ゲームの要素が全て繋がって、エグリアを通して遊べるようになってからですね。デモ機を岡宮道生プロデューサー(DMM.com POWERCHORD STUDIO)にプレイしていただいた際に、かなり没頭して遊んでいただけたみたいで、「途中で(課金などの)余計なことに気を遣わせたくない」と仰ってくださったんです。落とし切り型のプランを考え始めたのはそこからです。
当初、本作は基本プレイ無料も選択肢に入れて設計していたのですが、ガチャなどの極端な課金要素ではなく、必要なタイミングで必要な分だけ課金するような形にしようとしていました。
――まさに鶴の一声ですね。そういったゲームの根本的な部分の方向性も、両社の間で協議されてきたようですが。
亀岡氏:僕らとしては、「好きなように面白いゲームを作らせてもらえればそれでいい」というのが条件でした。僕らは技術屋ですので、お金周りのことに決して強いわけではなく、“ガチャを入れてほしい”と言われれば入れる覚悟もありました。
ですが、岡宮氏からは「熱中している時にお金の要素が絡んでくると冷めてしまう。なので、そうした要素はなるべく取り除いていこう」という提言があったので、「なら落とし切り型でやってみよう!」という感じですね。
――料金形態に関する話し合いはかなりスムーズにまとまったようですが、特に問題などはなかったのでしょうか?
亀岡氏:“どちらにするか”、というのはスムーズに話が進んだんですが、“いくらにするか”というのは、本当にリリース間近まで会議を重ねていました。なにせ前例がないものですから、10円単位で「いくらにすればいいんだろう…」とみんなで頭を悩ませていました(笑)。どれだけ悩んでも答えは出なかったのですが、おおよその金額が決まったのは12月くらいでしたね。
――そのきっかけは何かあったのですか。
亀岡氏:その月に丁度、某有名キャラクターの落とし切り型のアプリが配信され、それが一つの指標になりました。それでも金額を決定した時は恐る恐るといった感じで、金額を提示した後で、会議の参加者全員の顔を一人ひとりじっくりと見渡したりしましたね…(笑)。
――(笑)。協議に協議を重ねた結果の価格ですが、配信後、この価格は適正だったと思いますか?
亀岡氏:んー…正直なところ、分からないですね。
――「これで1200円は安い!」という意見もよく聞きますよね。
亀岡氏:遊んでいただいたユーザーさんなどからも、よくそう言っていただいています。「こんなにボリュームがあったなんて」という風に、良い意味で驚いてもらってます。
膨らんでいく「エグリア」の世界
――今後の展開についてお話を聞かせてください。先日家具の色を変えられる新しい住人“フェンネル”が実装されましたが、以降も新機能の実装やお話の追加などが定期的に行われていく予定なのでしょうか。
亀岡氏:まず、アップデートは2種類の形で実施していこうと思います。一つは、先日行った新機能「ペンキ屋」実装のような無料のアップデート。もう一つは、メインストーリーの追加を含む大型アップデートで、僕らは有料拡張コンテンツと言っています。
――この2つのアップデート方針ですが、有料と無料の違いはどんなところになってくるのでしょうか。
亀岡氏:無料のほうは、先日実装した「ペンキ屋」のように、新しい機能の追加が主になります。現在考えているのは、「すごろくマップ」と「木こり屋」ですね。
有料拡張コンテンツは、純粋に新たなシナリオが追加された続編といった感じですね。新しい卵(ランド)が8個追加され、シナリオの長さも本編のメインストーリーくらいのボリュームになるほか、新モンスター約50体、新精霊30体が追加されます。もちろん、家具についても本編と同等程度追加されますし、ストーリーに合わせた新種族も登場、住民の家の2階やラブリティの上限が解放なども実施されます。
――いろいろな機能が追加されるようですが、まず、無料アップデートの2つの新要素について詳しくお聞かせください。現在「エグリア」にはさまざまな種類の木材があると思いますが、「木こり屋」では指定した種類の木材を取ってきてもらえるのでしょうか。
亀岡氏:特定の木の種類を選択するのではなく、マップを指定して欲しい種類の木材を狙っていけるようにしたいと思っています。
――スペシャル島にてゴルド丸太が手に入りますが、「木こり屋」ではこのゴルド丸太の入手も狙えますか?
亀岡氏:ゴルド丸太については「木こり屋」からは手に入れることができません。なので、「木こり屋」が取ってきてくれるのは通常のマップから手に入る木材のみを考えています。
――「エグリア」にはさまざまな種類の素材がありますが、ほかの素材についても今後「木こり屋」のようにNPCが素材を取ってきてくれるようになるのでしょうか。
亀岡氏:そうですね、そういったキャラクターは徐々に増やしていく予定です。あとは、素材自体の数も新たなランドが増えれば、それに応じて取れる素材の種類も増えていきます。
――「すごろくマップ」はどういったものになりますか。
亀岡氏:すごろくマップについては現在何パターンか作って検証中なのですが、決められたターン数内に何ヘックス進めるか?とか、何ターン生き残れるか?など本編とは少々違ったミニゲーム的な楽しみ方をしてもらえるよう鋭意作成中です。
――有料拡張コンテンツでは新たなキャラクターも登場しますが、その中でも亀岡さんが注目しているキャラクターを教えてください。
亀岡氏:新たに町にやってくるゴブリン族の「ハルシロ」「コトミヲ」ですね。チャボたちレッドキャップ族とはまた異なる鬼の種族で、そうした種族間の違いや、彼らが住民たちとどういった関係を築いていくのかというところに注目して頂きたいですね。
――新しいお話では、チャボの記憶やエグリア王国など、本作の謎についてさらに迫るというよりも、住民間でのさまざまな問題にフォーカスされているのでしょうか。
亀岡氏:今回は、世界観を広げるという意味でも、そういった細々としたお話が主になります。元々僕が「エグリア」でやりたかったのはこういった部分で、まずはキャラクターたちをしっかりと立てて、彼らが暮らしていく上で起こるであろう些細な問題や出来事などを描いていきたいと思っているんです。
――アップデートでは家具や家などが追加されますが、新しいマイタウンを追加する予定はありますか。
亀岡氏:実はそうしたアイデアもあります。開発的にも新しい卵で別荘地のようなものを追加したいという意見があって、そこでマイタウンと同じようにどんな別荘を建てようか考えられるようにできればと思っています。
あとは家具というか、家の外に置けるものを追加したいと思っています。町の広間に置ける物や場所を追加して、もっといろいろな遊びができるようにしたいですね。例えば、ブランコを設置するとそこで住人が遊び始めたり、温泉を設置するとみんながそこに集まったりとか。
――街を拡張していく要素というのも今後増えていくんですね。それでは最後に、ユーザーに向けて一言お願いします。
亀岡氏:僕らの予想以上に多くの方が「エグリア」の世界を愛してくださっているようで、本当に嬉しい限りです。また、それらの想いに応えられるように一日でも長く「エグリア」を続けていきたいと思いますので、今後実装されるアップデートを含め、引き続き本作を遊んでいただけたらと思います。