2017年12月21日、メディアコンテンツ研究家の黒川文雄氏が主宰するトークイベント「黒川塾(五十六)」が開催された。アーケードやアミューズメント施設におけるバーチャルリアリティ(VR)、いわゆる「ロケーションVR」をテーマにさまざまなトークが展開された本イベントをレポートする。

多彩なゲストを招き、エンターテインメントの未来について語り合う黒川塾。今回は「アーケードVRの展望」をテーマにトークを展開。CAセガジョイポリスの小川明俊氏、バンダイナムコエンターテインメントの田宮幸春氏と小山順一朗氏、コーエーテクモウェーブの阪口一芳氏を迎え、アーケードやアミューズメント施設におけるVRの現状や展望、今後の課題などについてディスカッションを行った。

最初の話題は12月21日より全国のアミューズメント施設で稼働が開始されたコーエーテクモウェーブの体感型VR筐体「VR センス」について。阪口氏によると開発に取りかかったのは昨年の5月で、テクモの創業50周年の記念事業として開始されたのだという。

プロジェクトを主導したのはコーエーテクモホールディンクス代表取締役会長である襟川恵子氏だが、当初はコーエーテクモの役員のほとんどが反対で、ゼネラルプロデューサーのシブサワ・コウ氏が「コーエーテクモゲームスの人間(開発スタッフ)は使うな」と言ったという逸話はさまざまなところで語られているとおりだ。

そもそもコーエーテクモウェーブはアーケードの運営やパチンコ・スロットマシンの液晶の開発などを主たる業務としていて、ゲーム開発の経験者はほとんどいなかったというが、元ゲームス組をなんとかかき集めて開発をスタート。ゲーム制作に強いこだわりを持つ恵子氏に叱咤されながらプロジェクトを進めてきたと坂口氏は振り返った。

このような形で始まった「VR センス」だが、ロケーションテストでの手応えは上々で、特に女性客の多さが印象的だったと阪口氏は語る。ゲームセンターに来たことがないという人たちも多かったそうで、「ゲームセンターに新規のお客様を呼ぶツールになるのではないかと」と期待を込めた。

ここで、小山氏と田宮氏は「VR センス」に特に感心した点として、盗難防止のロッカーの存在に言及。プレイ中の荷物等の盗難はアーケードの問題点のひとつになっているというが、VR ZONEのような施設型の場合はコインロッカーの設置やスタッフによる監視などの方法があり、盗難問題のクリアは比較的容易だという。しかし、ゲームセンターの場合は、これらの方法を簡単には導入できないだけに「ああ、なるほど」と思ったと田宮・小山両氏は語った。ちなみに、プレイ中は自動的にロックがかかるので、荷物が盗まれる心配はゼロとのことだ。

「VR センス」の開発・営業を統括した
コーエーテクモウェーブの阪口一芳氏。

すでに、多数のタイトルが発表されている「VR センス」だが、今後もVRにマッチするIPを模索していきたいと阪口氏は説明。ブルーとシルバーの2色のタイプに分かれているのも、より多くのタイトルを展開するためで、それぞれ最大5タイトルまで搭載可能になっているとのことだ。ちなみに、ブルーはどちらかというと女性、シルバーは男性を意識したタイトルになっていて、これは男性がプレイしたあとに女性がHMDを装着することに抵抗感があるのではないかという配慮もあったことを阪口氏は明かした。

現時点ではアーケードでの展開が中心になるが、テーマパーク、ホテル、空港などへの展開も視野に入れているとのこと。さらに、老人介護施設などへの設置も構想していて、例えば年を取って自由に外出できない方に思い出の場所に行ってもらうといった活用法を考えていると阪口氏は語った。

次のテーマはバンダイナムコエンターテインメントの展開する「VR ZONE」とCAセガジョイポリスが運営する「東京ジョイポリス」のVRアトラクションについて。2017年7月のオープン以来、大人気となっている「VR ZONE SHINJUKU」だが、現在はは少し落ち着いたそうで、休日はまだけっこう並ぶものの、「平日は快適に遊べますよ」と田宮氏は状況を説明。ちなみに、土日は日本人が大半だが、平日は外国人客の比率が高いそうだ。

最新アクティビティ「近未来制圧戦アリーナ 攻殻機動隊ARISE Stealth Hounds」も順調という田宮氏。なんと任天堂の宮本茂氏もプレイしたそうで、宮本氏直筆のマリオのイラストが描かれた色紙が施設内に飾られているとのこと。これから行くという人はこちらもチェックしてみるといい。

来場者からもかなりの好評を得ているというが、当初は安全面に対処するため、3対3にして両チームにスタッフを1名ずつ入れていたという。だが、モーションキャプチャーの精度を上げて作ったことや走ると不利になるルール設定の効果もあって、プレイヤー同士がぶつかったりすることはほとんどなく、現在はスタッフを入れずに4人対4人で運営していると田宮氏は語った。

唯一の悩みのタネはプレイヤー枠が空いてしまいがちであること。「攻殻機動隊」は4人ずつのチームに分かれて対戦するのだが、「VR ZONE」はグループで来る人が多いため、プレイヤー枠がひとり分だけ空いてしまった場合、そこがなかなか埋まらず、結局片方がひとり少ないままプレイ開始といったことがあるそうだ。

「VR ZONE」の運営とVRアクティビティの開発に尽力してきた
コヤ所長こと小山順一朗氏(写真左)とタミヤ室長こと田宮幸春氏。

「エヴァンゲリオンVR The 魂の座」はさらにこれが顕著で、3人1組で乗り込むのだが、偶数のグループで来る人が多く、4人グループの場合は2人と2人に分かれてしまう。ひとりで来た人もカップルと一緒というのは当然気が引けるため、席がひとつ空いてしまいがちだという。

「VR ZONE SHINJUKU」はグループのお客を呼ぶという意図があり、その意味では成功と言えるのだが、こうしたことから「奇数はダメです」と小山氏は嘆息気味にコメント。ちなみに、セガの小川氏によると席数が奇数のアトラクションというのは基本的にないとのことで、これを聞いた小山氏は「シロウトでした、すみません!」と恐縮していた。

今後の展開予定だが、12月22日に「エヴァンゲリオンVR」のアップデートが実施。さらに、マリオやドラゴンボール級の未発表のタイトルも控えているという。2018年に発表予定とのことなので、こちらにも楽しみにしておこう。

長年に渡って国内外のセガの
ロケーションビジネスに従事してきた小川明俊氏。

東京ジョイポリスのフリーロール型VRアトラクション「ZERO LATENCY VR」は稼働開始から約1年半が経過し、こちらも平日は多少余裕がでてきたという。とはいえ、オープン以来フル稼働状態が約半年間続いたそうで、今年の7月から稼働を開始したシューティング「SINGULARITY(シンギュラリティ)」も非常に人気とのことだ。

ちなみに、「ZERO LATENCY」には本作のほか、第一弾ソフトとして展開された「ZOMBIE SURVIVAL」、さらに「ENGINEERIUM」というパズルゲームも搭載されていて、今後はこの3本を含む最大6、7本のソフトを日替わりや週替わりで提供、もしくはプレイヤーが選択できる形にしていきたいと小川氏は言う。フリーロール型はこのようにコンテンツを切り替えやすいのがメリットで、2018年の早い時期に実施したいと考えているそうだ。

また、セガはクラブセガ秋葉原にて「MORTAL BLiTZ」も展開中だが、本作の開発元である韓国のスコネック社とVRにおける協業を進めていてカラオケボックス、ネットカフェ、サバイバルゲームなどへのVR展開を予定しているという。

詳細は明かせないがチームで戦うタイプのもので、eスポーツのプレイヤー育成も視野に入れたものだが、ゲームのことを知らない人ものめり込めると小川氏は強調。社内でのテストでも誰もVR酔いを起こさず、「もう1回プレイしたい」という声が大半だったそうで、「かなり盛り上がると思いますよ」と内容に自信を見せていた。2018年の早い時期に具体的な発表とロケテストを行う予定とのことなので、こちらも大いに期待したいところだ。

いわゆる「13歳問題」やVR施設の環境づくりの重要性も話題に

VRの年齢制限、いわゆる「13歳問題」も話題に上った。現在、VRは13歳未満は基本プレイ不可という自主規制状態となっていて、子供と一緒に親子で楽しむといったコンテンツの提供が難しくなっている。とはいえ、施設などで展開するロケーションVRは体験が短時間で、施設運営者の責任のもと監視コントロールできるなど、より安全にVRを楽しめる環境にあり、13歳未満は一律にダメと明確にラインを引くのは適切かという意見も少なくないという。

田宮氏が役員を務める一般社団法人ロケーションベースVR協会でも、この「13歳問題」について議論しており、小児科の医師や専門家とも相談しながら新たなガイドラインが作れないか検討しているという。もちろん、コンテンツとしての年齢制限もあり、たとえば残酷な演出が盛り込まれたホラーコンテンツの場合はまた違ってくる。つまり、コンテンツとハードというふたつの基準があり、さらに運営面での考えも加味した上でロケーションVRの年齢制限は決まってくるだろうと田宮氏は述べた。

イベントの主宰・司会を務める黒川文雄氏。

こうしたVRの年齢規制は海外ではどうなっているのだろうか。小川氏によると中国ではショッピングモールの子供用の乗り物としてVRが人気になったことから、年齢規制はほとんどないに等しいという。韓国も同様で、2017年の7月にインチョンのショッピングモールに「VRモンスター」という大型VR施設がオープンしたのだが、基本的に子供が対象で年齢制限はないそうだ。ちなみに、この施設はオープン以来、連日満員御礼状態が続いているとのことで、客層も小学生がメインであることから、数年後には韓国ではVRが当たり前になるだろうと小川氏は予測した。

また、この韓国の施設を事例に、今後はVRの提供の仕方や環境づくりも重要になると小川氏は説明。つまり、VR機器をただ設置しただけではプレイしようというモチベーションはなかなか喚起されない。特に日本人は「見られると恥ずかしい」という羞恥心が働きやすく、興味があっても気が引けてしまうという人が多いのだという。しかし、この韓国の施設はボックス型のルームに分かれていて、そこに5、6人くらいの仲間同士で入って遊ぶ形になっているため、抵抗なくわいわい楽しむことができるそうだ。

このように、プレイ空間を区切るなどして来場者のマインド、モチベーションを整えてあげることが重要で、たとえばディズニーランドは入場する際に羞恥心が取っ払われているから、園内ではミッキーの耳などを平気で付けることができる。これと同じで、ジョイポリスなどの施設も料金を支払って入場することによって、無意識のうちにモチベーションが上がっているからプレイしてもらえるのだという。「梅田ジョイポリス」にて展開中のVR脱出ゲーム「エニグマスフィア」の施設も同様の思想に基づいていて、VRを展開する場合はこうした仕掛けが必要だと小川氏は強調した。

これには田宮氏も同意で、「VR ZONE」では衛生面を考慮して入場時にフェイスマスクを渡しているが、当初は「こんなもの着けてもらえるはずがない」と社内で大笑いされ、実際に導入するか、かなり悩んだという。ところが、いざ配ってみると、むしろフェイスマスクを着けたまま自撮りするなど、まったく抵抗なく受け入れられたそうで、これも小川氏の言う入場料を支払って施設内に入ることによるモチベーション効果なのだろうと述べた。

小山氏も同様の認識で、かつて回転寿司店にゲーム機を試験的に設置してみたことがあったが、ほとんど遊んでもらえなかったという。こうした体験を踏まえて、やはり「遊びに来た」「ここは遊ぶところだ」という気持ちを持ってもらうことが重要だと語った。

「VR ZONE」での海外のプレイヤーの反応についても質問も出された。特徴的なのはリアクションが大きいことで、「ドラゴンボールVR 秘伝かめはめ波」で「か~め~は~め~波ぁー!」と奇声を上げたり、「機動戦士ガンダム 戦場の絆 VR」で「アムロ、イキマース!」と叫んだりと、海外の人はなりきる感がすごいという。これはワールドワイドに通用するコンテンツを選んだことの効果で、田宮氏は「やはり日本のコンテンツは強いな」と改めて思ったそうだ。

意外に好評だったのが「急滑降体感機 スキーロデオ」。お台場時代から稼働していることから田宮氏らにとっては旧作のように思えていたそうだが、海外の人には人気で、このようなダイレクトに体を動かすものが好まれる傾向があると田宮・小山両氏は分析。逆に、意外と欧米人に不評だったのが「ホラー実体験室 脱出病棟Ω」で、ホラーの舞台と病院というのが噛み合わないらしく、「なぜ病院にお化けが出るんだ? 病院はキレイなところだろ?」と、やたら不思議がられたそうだ。

最後に今年1年の感想と来年の展望について、それぞれコメント。小山氏は去年の今頃はPS VRが盛り上がっていたが、そこから少しずつトーンダウンしてきたと述懐。それだけにお台場での「VR ZONE」の展開は意義が大きかったと改めて感じているそうで、「あれが会社に認められたから新宿への流れが作れた」と語り、そういう意味ではロケーションVRが元気な1年だったと振り返った。一方、家庭用デバイスも「マジックリープ」がついに公開されるなど、来年は各デバイスメーカーが相当力を入れてくる気配があることから、VRゴーグル周りの人件費の軽減を削減できるのではないかと期待を述べた。

田宮氏も「わざわざ」という言葉がいろいろなところにつくのがVRデバイス周りの環境であると改めて問題を提起。自然にデバイスなどを着けられるようにならないと越えられない壁、広がらない領域があると述べ、そうした部分をクリアするためにもデバイスメーカーに頑張ってほしいとエールを送った。

小川氏にとって今年は「ZERO LATENCY VR」の展開や韓国スコネック社との協業を進める中で、自分たちのコンセプトに合うVRアトラクションやアーケードの情報収集に注力してきた1年だったとコメント。来年発表予定のコンテンツも、なんと自身のFacebookを介して知ったそうだが、相手は小川氏からのメールをイタズラと思い込んでしまい、なかなか交渉が進展しない一幕もあったそうだ。来年は先ほども言ったロケーションベースとは違った新たなVRコンテンツの展開にかなりのリソースを割いていくとのことで、「これがダメだったらセガ辞めますから」という爆弾発言も飛び出すなど、新コンテンツへの強い自信をうかがわせた。

こうなるとセガオリジナルコンテンツの可能性も期待したくなるが、残念ながら小川氏の感触ではセガとしてはVRに後ろ向きだという。セガは1994年に横浜ジョイポリスにてVRアトラクション「VR-1」を稼働していたという実績があり、もしかしたらセガの開発者の中に「VRなんて20数年前にすでにやった」という意識があるのかもと小川氏は推測していた。

阪口氏はまず「VR センス」をしっかり売りたいと来年の目標を掲げると同時に、2018年はVRのハード環境がさらに大きく進化していくだろうと予測。自分たちもそれをしっかり追いかけていきたいし、海外展開への足がかりを作っていきたいと意気込みを述べた。

最後に行われた質疑応答の中で、小山氏が「戦場の絆」のトップランカーの将校たちの多くがVRに興味を示していないことを例に挙げ、まだまだVRは認知されていないとコメント。ただ、それだけに伸びしろもまた大いにあると感じているそうで、来年以降のVRのさらなる飛躍に期待しつつ、今回のイベントは幕を閉じた。

※画面は開発中のものです。

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