任天堂とアトラスのコラボレーション作品である「幻影異聞録♯FE Encore」を、少し変わった角度からおすすめしよう。
Nintendo Switch用ソフトとして発売中のRPG「幻影異聞録♯FE Encore」をご存知だろうか。本作はWiiU用ソフトとして発売された「幻影異聞録♯FE」に様々な新要素を追加したパワーアップ移植版だ。任天堂とアトラスが共同開発を行っており、オリジナルの第一報で「ファイアーエムブレム」と「真・女神転生」のコラボレーション作品と報じられたことを覚えている方もいらっしゃるかもしれない。
そのように聞くと、「ファイアーエムブレム」と「真・女神転生」のファン以外は十分に楽しめないゲームなんじゃないか。そう感じる人もいると思う。確かに、これらシリーズのファンだから楽しめる小ネタが豊富なゲームではある。しかし実は、本作を最も楽しめるユーザーは、「アイドルマスター」や「ラブライブ!」、「アイカツ!」や「KING OF PRISM」などのいわゆる“二次元アイドル”のファンだと筆者は信じている。今回はそう感じる理由を中心に、本作の魅力をお伝えしていきたい。
最近「あつまれ どうぶつの森」のためにNintendo Switchを購入した方の中にも、特定のアイドルコンテンツのファンは多いことと思う。そういった方々に“次の一本”の選択肢として、本作を胸に留めていただければ幸いだ。
「幻影異聞録♯FE Encore」の舞台は現代の東京。主人公は高校生の蒼井樹(CV:木村良平)。樹はある日、幼馴染の織部つばさ(CV:水瀬いのり)が新人アイドルオーディションを受けているのを偶然見かけるが、オーディション中に突如会場に異変が生じ、つばさは異空間へと連れ去られてしまう。そんなつばさを追いかけて自らもまた異空間へと足を踏み入れる樹だったが……というのが本作の導入部だ。
その後、樹とつばさは胸に宿った「パフォーマ」の輝きによって、異世界で名を馳せた英雄たちの力をこちらの世界で行使できる「ミラージュマスター」として覚醒。その力を、芸能事務所社長の志摩崎舞子(CV:小清水亜美)に認められ、ふたりは彼女の事務所に所属することとなる。
「パフォーマ」とは、人の心に宿る表現力の結晶。その輝きは、持ち主が芸能人として成長すればするほど強くなる。つばさは新人アイドルとしてアイドル活動を、樹はそのサポートをしながらも、ミラージュマスターの力を用いて、芸能界で起きる不思議な事件を解決していくことになるのだ。
本作は芸能人という職業を通しての、つばさたちの成長物語でもある。歌にダンスにファッション誌のモデル、ドラマでの演技……それらを通して、人としての成長や、プロフェッショナルとしての心構えが描かれる展開は、「アイドルマスター」や「アイカツ!」のファンにとって、慣れ親しんだものだろう。樹とつばさ、そして後に出会う芸能界で活躍する仲間たちは、様々な困難を乗り越え、自らの殻を破り、新たな表現力を身につけることで、これまでにない輝きを放つパフォーマを手に入れていく。「アイカツ!」ならば“芸能人はカードが命”だが、本作の場合は“芸能人はパフォーマが命”なのだ。
樹たちが絆を結ぶことになる異世界の英雄たち、すなわち「ミラージュ」は、「ファイアーエムブレム」のキャラクターがモチーフとなっている。しかしその元ネタを知らなくとも、“芸能人としての輝きが英雄を呼び寄せる”ということを把握しておけば、きっと戸惑うことは少ないはず。このミラージュを「KING OF PRISM」風に言うならば、「あれは、樹たちの煌めきが形になったものだ」と、言えなくもない……はずだ。
このように書いていくと、「幻影異聞録♯FE Encore」が二次元アイドルのファンにこそプレイしてほしいゲームということが、だんだんと納得いただけるのではないだろうか。
章仕立てでストーリーが進行していく本作。つばさたちが芸能人として新たな仕事を受けると、そのまわりで怪事件が発生。これを解決するために「イドラスフィア」と呼ばれる異空間(ダンジョン)を探索し、闇に染まったミラージュたちと戦闘を行いつつ攻略。ボスを倒すことが事件解決に繋がり、そこで教訓を得て芸能人として成長。次の章に向かう、というのが基本的な流れだ。
ストーリーが進むと、同じ事務所に所属する芸能人たちが仲間に加わる。共に戦ってくれるのは、特撮俳優志望の赤城斗真(CV:小野友樹)、つばさにとって憧れのカリスマ歌手である黒乃霧亜(CV:南條愛乃)、ハリウッド女優を夢見る金髪少女の弓弦エレオノーラ(CV:佐倉綾音)、子ども向け料理番組に出演するチャイドルの源まもり(CV:福原香織)、プロのエンターテイナーを体現する孤高の男・剣弥代(CV:細谷佳正)など、魅力的かつ頼りになるキャラクターばかり。樹やつばさ同様、彼らをめぐるドラマにも注目してほしい。
戦闘システムは、昨今の「ペルソナ」シリーズをプレイしている方には、その簡易版のようなものをイメージしてもらえばよいだろう。シンプルながら奥深いこのシステム自体も素晴らしいものだが、本作において特筆すべきは芸能がテーマならではの、各種演出の華やかさ。時として歌い踊りながら攻撃を行う姿は、アイドルアニメのライブシーンなどが好きな方にも、楽しめるものとなっているはずだ。
敵の弱点を突くことで仲間同士でバトンをまわすように次々に連携攻撃が決まる「セッション」では、画面の派手さだけじゃなく「つばさ、任せた!」「霧亜さん、お願いします!」といったキャラクター間の掛け合いも楽しい。中盤以降はバトルに直接参加する「メインキャスト」だけじゃなく、控えの「サブキャスト」までもが連携に参加。「~Encore」の新要素として、事務所社長の舞子などキャスト以外のキャラクターまでもが追撃に参加して、過剰なまでの連携で敵をボコボコでき、とても痛快だ。ちなみにボタンひとつで連携時の演出が短くなる「クイックセッション」に切り替えられるので、バトルのテンポが気になる方も安心してほしい。
これだけでも十分に華やかだが、仲間たちの芸能活動をモチーフとした能力である「スペシャルパフォーマンス」や「アドリブパフォーマンス」、そしてコラボユニットを結成した仲間同士でのみ放てる「デュオアーツ」は、いずれも絶大な効果を発揮する。これらの能力の多くはサイドストーリーで仲間たちが経験を積むことで使えるようになるもので、“芸能人として経験を積むほど、ミラージュマスターとしても強くなる”という設定通りの派手さ&強力さは、キャラクターたちの成長を見守ってきたプレイヤーとしては感慨深さが込み上げてくる。
これらの演出が入り乱れる戦闘シーンは、まさに一流アーティストによるライブやミュージカルを観ているかのよう。また、芸能人たちの煌めきが、物理的な攻撃手段にもなる荒唐無稽な世界観は「KING OF PRISM」的でもある。この楽しさを、ぜひ多くの方に体験してみてほしい。
ここからは、本作とほかの二次元アイドルコンテンツとの共通項をもう少し詳細に挙げていこう。
仲間になる芸能人たちの声を演じる声優陣は前述したとおり。その多くがほかのアイドルコンテンツでも人気アイドルを演じてきた実力派ばかりだ。加えて、ミラージュたちの育成のナビゲートをしてくれる女の子“チキ”を演じるのは、「アイカツ!」の初代主人公・星宮いちごを演じた諸星すみれさん。主要キャラクターを演じる声優さんたちの中に、きっとあなたが思い入れのあるコンテンツで馴染み深い方を見つけることができるだろう。
また、作中曲はエイベックスの油井誠志氏がプロデュースしており、そのクオリティは保証付き。“楽曲派”のアイドルファンも、お気に入りの曲が見つかるのではないだろうか。加えて、BGMの作曲は「ラブライブ!」の藤澤慶昌氏が担当している。
ストーリー展開でも、あなたがこれまでに触れてきた作品を思い起こさせることが、何度もあるだろう。クールなイメージで売り出している黒乃霧亜が本当はかわいいものが好きで、そんな自分を受け入れ、表現しようとするエピソードは「ラブライブ!」2期の星空凛のエピソードを彷彿とさせる。子ども向け料理番組で活躍している源まもりが、本当は昭和歌謡が好きで、求められる仕事とやりたい仕事の間で揺れる葛藤からは、「アイカツ!」で氷上スミレがシャンプーのCMと歌手デビューのオーディション、どちらを受けるべきか悩むエピソードが思い出される。
つばさの、霧亜に憧れを抱きながらも、自分だけのアイドル像を確立し、オリジナルなスターとなっていく物語も、様々な作品で形を変えて語られてきた普遍的なものだ。そんなつばさが霧亜のヒット曲をカバーすることになったり、全く違う個性を持ったつばさと霧亜でユニットを組むことになったりといった、アイドルもののツボを押さえたストーリーも展開されていく。
それから、本作の第1章のタイトルは「スタァ誕生」であり、これは「プリティーリズム・オーロラドリーム」の第1話のタイトルと同じだ。だから何かあるというわけではないが、これは大切なことだと思ったので、お伝えした。
若干のこじつけもあったかもしれないが、以上のように、本作は様々な点がほかの二次元アイドルコンテンツを想起させる要素で構成されており、それらのファンのツボをしっかり押さえたものになっている。筆者はアニメファンなので具体例がアニメに偏ってしまったが、スマホゲームや楽曲メインのコンテンツのファンならば、また違った共通項を見つけられるかもしれない。
そしてRPGとしての完成度の高さも、名作とうたわれる作品と比較しても何ら引けを取らない。この部分は語り切れていないが、今回のテーマから外れるので、ぜひプレイして実感していただきたい。本作の素晴らしさがまだまだ届くべきところに届いていないように感じ、この記事をしたためた次第だ。
多くの方に、この「幻影異聞録♯FE Encore」をプレイしていただき、樹たちのパフォーマの煌めきを感じてほしい。
2020/4/19 15:45 一部表現に誤りがあったため、訂正いたしました。