スクウェア・エニックスより発売されているPS4/Nintendo Switch/PC(Steam)用ソフト「Voice of Cards できそこないの巫女」のプレイレポートをお届けする。
「『Voice of Cards』シリーズの新作が出る」と聞いたとき、私は二つの感情を抱いた。一つは、ちょうど昨年末にプレイし、好感触だった「Voice of Cards ドラゴンの島」(以下、「ドラゴンの島」)のような作品がまた遊べるという喜び。もう一つは、果たしてこのシリーズは“進化”してしまっても大丈夫なのだろうか、という不安である。
本シリーズは、テーブルトークRPG(以下、TRPG)風のRPGだ。プレイヤーはTRPGよろしく、ゲームマスターによる進行にしたがって物語を進めていく。実際のTRPGのようにプレイヤー自身がキャラクターを演じることは無いため、あくまでTRPG“風”であるが、マップやキャラクターの会話、バトルに至るまで全てカードやサイコロなどで表現されており、デジタルゲームでありながらアナログ風の雰囲気を感じられるのが大きな魅力となっている。
そこで生まれるのが、特徴となるアナログ感を残しつつ、新しさを出せるのか? という疑問だ。結論から言うと、本作「Voice of Cards できそこないの巫女」は、縦の繋がり(=進化)というよりは、横の広がり(=変化)によって新たな可能性を見出す方向性で、その回答を示した。
そもそも本作の公式サイトには、「『Voice of Cards ドラゴンの島』の続編ではないため、本作のみでお楽しみいただけます。」という文言がある。続編ではない旨が、しっかりと言及されている訳だ。では、本作はどのような点で変化しているのか? そして、そうした変化がシリーズにどういった可能性をもたらしたのか? クリア後レポートとはなるが、ネタバレを極力抑えた形で振り返っていこう。
物語――声と王道
まず気が付く変化は、ゲームマスターの“声”と、彼の語る“物語”だろう。「ドラゴンの島」では、響くような低音が魅力の安元洋貴氏による、王道でありながら気まぐれにそれを皮肉る、どこかコミカルな物語が特徴的だった。今作でゲームマスターを演じるのは速水奨氏。プレイヤーに寄り添うような、優しくラグジュアリーな声色で語られるのは、滅びの日を待つ島から始まる航海の物語だ。
「巫女」と呼ばれる女性と、巫女を守る「従者」によって、代々、島を維持するため精霊を生き永らえさせてきた諸島。とある島に住む青年・バランはある日、海岸に倒れていた少女・ラティを見つける。ラティは巫女として生まれたが、巫女になれなかった“できそこないの巫女”。青年はラティを巫女にするため、ぬいぐるみ姿の自称精霊・ラックとともに、諸島を巡っていく。
島ごとに異なる巫女と従者が登場し、彼らの身の上や関係性を知っていく構成はTVアニメーション的でもあり、一本の映画のようだった「ドラゴンの島」とは違う。また、しっとりとした優しさが物語全体を包んでおり、「ドラゴンの島」で頻出していたコミカルな描写はかなり抑えられているのも特徴といえよう。
徹頭徹尾シリアスであるかというとそうでもないが、声を失っているラティとそれを気遣うバラン、得体のしれない存在のラック、島を維持するという目的を持った巫女と従者たちのやりとりは、どこか微笑ましく、そして哀愁をはらんでいる。
「ドラゴンの島」と本作の物語の大筋は、どちらも王道ではある。しかしながら、“時代の異なる王道”という表現が近いように思う。例えとして適切かどうかは分からないが、「ドラゴンの島」の特徴が往年の名作RPGが如き直球さだとするなら、本作は十数年前の深夜アニメーションのような穏やかな残酷さを随所に感じるのだ。
その穏やかな残酷さを体現しているのが、今作から登場する「心の世界」だろう。ここで、プレイヤーは声を失ったラティの心中を文字通り目の当たりにすることになる。嬉しい、キライ、怖いといった渦巻く感情がさまざまな形でつづられる心の世界の傷を修復する過程、世界と心の傷がリンクしているような表現は、「ドラゴンの島」で描かれた物語像よりはやはり少し時代が進んでいると感じる。
戦闘――関係と戦略
ボード上で行われるターン制バトルは、毎ターン1個ずつ追加される「ジェム」と呼ばれる宝石を消費したスキルなどを使って戦っていく。今作から登場する「連携スキル」は、巫女と従者のどちらが使用するかによって異なるものが発動。巫女と従者のどちらかが行動不能だど使えないという点を覚えれば、多くのジェムを消費する強力なスキルと捉えて問題ない。
「ドラゴンの島」では、物語の進行に応じてパーティーメンバーが増えていき、個々人のスキルを中心に戦略が拡張される王道RPG的なシステムだったが、今作では一味違うものとなっている。それぞれの諸島に住む巫女と従者は、基本的にその章の間だけ仲間になり、バランとラティのコンビに加入。島に上陸するまでの「幕間」と呼ばれる期間では、ラックがパーティーに加わる形式だ。
巫女と従者はレベルアップや装備・スキルの入れ替えができず(装飾品のみ任意で装備可)、ある程度決まったステータスで戦うことになる。これだけ聞くと不自由になったと思うかもしれないが、巫女と従者は連携スキル以外にもシナジーのあるスキルを覚えており、ステータスや装備に左右されにくい、戦略性重視の戦闘システムであるといえよう。
また、主人公であるバランとラティも、物語を進めていくと連携スキルを習得する。連携スキルは、巫女と従者の絆に加え、バランとラティの関係性の深まりを示す役割もあるのだ。
変化のもたらす可能性
物語と戦闘。RPGにおける2大要素が変化を遂げている本作は、「ドラゴンの島」とは似て非なる作品だ。そしてクリアまで進めた今、シリーズ第2弾となる本作を続編として制作しなかったことを英断と言わざるを得ない。
進化を続ける連続性のあるシリーズは、既存のシステムが洗練されていく反面、前の作品がどうしても古臭く感じてしまい、かつ新規プレイヤーの参入ハードルが上がる、という欠点がつきまとう。その点で本作は、ゲームシステム的なステップアップは最小限に抑えてアナログ感を保ちつつ、カードによる表現の幅を広げることに注力しており、どの作品から遊んでも良いシリーズの一作として成立させている。
真新しさに欠ける点をカバーする物語は、構成や内容の変化はもちろん、終始耳に入ることとなるゲームマスターの声を変更するという、本シリーズの特権とも言える選択によって様変わりさせることが可能という訳だ。
シリーズに共通する賛否両論点としては、ゆったりとした独特なゲームテンポが挙げられるが、TRPG風というコンセプトである以上、その点は承知の上でプレイする必要があるのも事実。「ドラゴンの島」ではアップデートで実装となった高速化機能が標準搭載されるなど、配慮されている点もあるため、ここを要改善として指摘し続けるのは野暮に思える。
「ドラゴンの島」とは異なる味わいを見せた本作。今後、シリーズの新作が出続けたとしても、前の作品が色あせることは無いだろう。好みの作風のものから入っても良いし、魅力を感じたキャラクターのいる作品から入っても良い。少しだけではあるが、続けてプレイしているファンに向けた要素もある。本作は、古くから続くアナログゲームのように、シリーズが広く長く楽しまれていく可能性を感じる作品であった。頭の中で動きだす物語が、今後も広がっていくことを願う。
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