VRアドベンチャー「ディスクロニア: CA」はゲーム体験の継承+進化をどう両立させたのか?VRの特性を阻害しない体験設計とは【CEDEC2023】

発表会・イベント取材
0コメント 近藤智

2023年8月23日~25日にわたって開催された「CEDEC2023」。本稿では8月24日に実施されたセッション「圧倒的な没入体験を目指して。VRアドベンチャー『ディスクロニア: CA』の体験設計」のレポートをお届けする。

登壇者はMyDearest クリエイティブ部門の末岡 青氏、黒滝智生氏、初鹿デニック氏、大川大輝氏、池田博幸氏。同社のリリースしたVRアドベンチャーシリーズの3作目「DYSCHRONIA: Chronos Alternate」(以下「ディスクロニア: CA」)でどのような課題とぶつかり、クリアしていったのかを具体的に紹介していった。

クロノスユニバースの軸となる体験と、VRアドベンチャーの課題

まずは、ディレクターの末岡氏が「ディスクロニア: CA」の概要を説明。本作は特殊能力を持った捜査官が主人公で、未来都市で起こった殺人事件の謎を追うVRミステリーアドベンチャーだ。ストーリーを追っていくと命の危険を感じるようなシチュエーションや脱出ゲーム的なパズルが都度発生し、これをクリアすると次第に真相が明らかになる構成となっている。より詳しいゲーム内容については別途レポート記事を参照してほしい。

本作は単独の作品ではなく、同社の「クロノスユニバース」というVRアドベンチャーシリーズの3作目となる。1作目の「東京クロノス」、2作目の「ALTDEUS: Beyond Chronos」は、基本的にテキストを読み進めていくVRノベルに近い形式をとっていた。3作目では元々テキストアドベンチャーとして展開していたシリーズへ、異なるゲーム性を取り入れている。

この理由について、末岡氏はシリーズの後継作品を作る際に「守りと攻めのバランス」を重要視したと話す。シリーズの軸となる体験を継承する「守り」、より広い層に届けるためにゲーム体験を進化させる「攻め」。シリーズ作品とは、この軸となる体験を最大化させるために存在するべきであること。そしてプラットフォームの特性と時代性を考慮し、潜在的なプレイヤーへアプローチしていく。両軸が揃うことでシリーズ作品が時代やプラットフォームの変化に取り残されず、より広い層へ体験を届けられると考えた。

同社がクロノスユニバースで軸としている体験は、キャラクターの関係性の中心に入り込み、物語の主人公となること。この体験を支えていたのが、VRでは珍しい10時間超のプレイ時間と、リッチなキャラクター演出だ。主人公として長時間、物語に没入する中で、まるで自分が本当に主人公として存在するかのような一体感をもってのめり込むことができる。末岡氏は、これこそが「VRが可能とする唯一の体験」のひとつだと考える。

より広い層に届けるためには、まだ市場が限られているVRでは必然的に北米を考慮することになる。そこでゲーム体験の進化として、北米のプレイヤーにも受け入れられやすいアクションを取り入れることにした。これは「アクションゲーム」という意味ではなく、体を使ったアクションの生きるゲーム性のこと。例えばリズムゲーム「Beat Saber」では剣戟のようなアクションを入れることで、より高い没入感を実現しているといった具合だ。

これらの市場を考慮し、本作では軸となる体験を維持しつつ、海外のアドベンチャー文脈やサスペンス映画の構成も取り入れながら、よりVRデバイスの所持層に届きやすい体験を届けることを方向性として決定。具体的には移動・探索が可能な自由度の高いアドベンチャーにする、身体性を伴うアクションを入れてプレイヤーと主人公のより強い一体感を目指す、パズル・ステルスなどの攻略要素で手ごたえのあるゲームプレイを実現する。この3点を目標としたものの、クロノスユニバースの軸となる体験と、潜在的なプレイヤー層に向けたゲーム体験は非常に相性が悪いという問題に直面する。

身体性を伴うアクションは没入感を高めるが、体を動かすことで非常に疲れやすい側面もあるため長時間プレイのゲームに向いていない。パズルなどの攻略要素は手ごたえを生み出すが、解答にたどり着けず攻略情報を見ようとした場合はHMDを外してしまうなど物理的に没入感が削がれてしまう。移動や探索は世界の実在性を高める一方、孤独感の助長や次の目的が伝わりにくくなるなどの問題も。一見、悪い要素のように聞こえるかもしれないが、これはVRデバイスの特性を活かして没入感を高めてくれる利点だ。しかしクロノスシリーズでは、何も考えずに実装すればシリーズの軸となる体験を阻害してしまう要素となる。とはいえVR市場に向けたアドベンチャーを作る以上、いつかは向き合わなければならない課題としてデメリットを感じさせない体験を目指したという。

VRの抱える課題解決を目指した「アクション」「難易度設計」「インタラクション」「VFX・サウンド」の事例

ここからは、実施したさまざまなアプローチの中から「アクション」「難易度設計」「インタラクション」「VFX・サウンド」の4項目でより高い没入体験を提供するべく取り組んだ事例を紹介。黒滝氏は「没入感を生むステルス体験」と題し、どのようにVRデバイスの特性を生かした身体性を伴うアクションを導入したのかを説明していく。

本作はプレイ時間が長時間に及ぶため疲労を伴うアクションは入れにくく、アドベンチャーゲームを好むプレイヤーはアクションゲームが苦手な場合も多いため難易度が上げにくい。そのため一般的なVRアクションのような激しいアクションでの満足感や、プレイヤースキルの向上による達成感などは提供が難しいという問題があった。

そこで本作では物を触る、動かすといった「物とのインタラクション」を活用。複雑なアクションを排除する代わりに、シンプルなアクションを適宜挟むような構成を心がけた。実際にゲーム内では物を投げて敵を誘導する、鉄板をスライドさせる、鉄板を押し倒すなど説明がなくても分かりやすい直感的なアクションを使用。定期的に小さなインタラクションを挟んでいくことでプレイヤーを飽きさせず、実在感の向上にもつなげている。

もう1点は、距離感や空間認識の活用だ。VRでは距離や空間を立体的に把握できるため、狭い空間をくぐり抜ける、高いところから見下ろすなど距離感や空間を意識させる場面を入れることで臨場感を高められる。本作ではコンテナの下をくぐり抜けると上から敵のドローンが狙ってくる場面や、高所から見下ろすといった場面を用意し、緊張感や圧迫感、臨場感を生み出している。

また「物語の主人公」としての体験を提供するため、空間音響も利用している。例えばプレイヤーが障害物に隠れている中、敵の行動音が行き来するという空間を意識した演出をプラスして没入感を高めた。さらに本作では物語の終盤、時計の針を右に回すか左に回すかで物語が変化する重要な選択をプレイヤーへ委ねている。物語上の重要な場面で特別なインタラクションを取り入れ、プレイヤーと主人公の一体感を強化した例だ。

続いて、初鹿氏は「没入感を削がないVRパズル」として、一般的なゲームのように行き詰まって攻略情報を調べるといった没入感を削ぐ状態を防ぐためのアプローチを紹介。この課題に対して「解き方を誘導・扇動させる」「ヒントを丁寧に与える」「ギミックとヒントを同じ視界内に収める」の3点を行い、没入感の維持に努めたという。

VRパズルは現実と同じように手で掴む、押す、埋めるなどの動作を伴う。解き方が事前に推測できないと疲労感を与える恐れがあるため、あらかじめキャラクターにパズルを解くために何をすればいいのか、どのような行動をとればいいのかを示すようにした。ゲーム内ではキャラクター同士の会話を通じてプレイヤーに教えていく、キャラクターがパズルの解き方を身振り手振りで扇動する、キャラクターの立ち位置や視線でプレイヤーを誘導するといった形で行っている。

併せて、VRでは「迷い」がプレイヤーにとって大きなストレスとなり、没入感を軽減させる恐れがある。そこで相棒キャラクターがヒントやリアクションを逐次出す、頭部の動きに必ず追従する字幕システムを有効活用してヒントの文字カラーを変えて目立たせるといった要素でギミックのヒントを見逃さないようフォローしている。

コンシューマーゲームではディスプレイ全体が視界だが、VRの視界は現実の視界と同じであり、すべてを一度に見ることができない。全体を見渡すには頭部を動かす必要があり、VR酔いにつながる恐れなど動作に負担が伴ってしまう。そこでギミックの答えとヒントをなるべく同じ視界内に収め、認知負荷を下げるように対応した。テストプレイでは難易度が高いと言われたシーンでも、同じ視界内に収まるよう調整したところ正当率が向上させることができたそうだ。

大川氏は「プレイヤーに寄り添うVRコミュニケーション表現」として疲れや酔いが発生しにくいコンテンツ作りとともに、体験に集中させる表現について紹介。疲れやすい場面や演出が弱くなる場面ではキャラクターとの連帯感を用い、プレイヤーの体験をフォローしている。

本作では殺人事件の捜査のため、事件に関係するものや世界観の説明となるオブジェクトが配置されている部屋を調べる場面がある。プレイヤーは好きな順番で調べられるが、集中が切れて重要な情報を読み飛ばしてしまうといったことも考えられる、そこでプレイヤーにはキャラクターが部屋の中を見て回る様子を見せ、キャラクターの行動から怪しい場所が把握しやすくなるようにした。また、VR内ではキャラクターの視線移動も伝達手段として非常に有効で、目的物に対してキャラクターの反応を見せることでプレイヤーの意識を向けさせられるという。

そして本作では事件を追う中でさまざまな場所を探索するため、ロケーション間の移動パートも多い。しかし何度も訪れる場所では背景の新鮮さが次第に薄れ、移動中はストーリー進行があまり行われないなどの理由で集中力が途切れる場合がある。そこでプレイヤーを飽きさせないよう、追従するキャラクターが多彩な反応を返すような仕組みを導入している。

例えばプレイヤーが探索中に掴んだものへ興味を示す、キャラクターを見つめると自身を撫でるよう要求する、プレイヤーが手を振って合図を出すと手を振り返してくれるといったリアクションがある。心理学のミラー効果を活用した登場人物とプレイヤーとの双方向コミュニケーションは、体験の新鮮さを保つために有効だったと振り返る。

VFXを担当した池田氏は、他の誰でもない自分自身の物語として体験できるのはVRの大きな魅力だと語る。しかし自分の視点がそのままカメラワークになるため、展開上とくに注目してほしいものへカメラを寄せるなど視点やテンションのコントロールができない。プレイヤーへ次の目的が伝わらず迷子になってしまうのを避けるためサポートキャラクターが誘導する手法も有効だが、ストーリーの進行上やゲームの都合上、このやり方ができない状況もある。そんな状況下でもプレイヤーに次のアクションを起こしてもらいたい場合、効果的なのがVFXによる空間演出だ。ここでは「ディスクロニア: CA」に登場した「光の道」を例に、プレイヤーの意識を誘導する手法を紹介していく。

ここで狙ったのは、サウンドとVFXの相乗効果だ。BGMの切なげなイントロが入り、光の道の扉をくぐったところで光の粒子(パーティクル)が奥行きや期待感を表現。ゴールの示唆と視線誘導を兼ねて、BGMのテンポに合わせてタイミングよく光の軌跡を放出する。中盤に差し掛かりBGMが盛り上がったところで、4300個の粒子を大量に放出。粒子のカラーは青から黄色に変化し、プレイヤーに浄化されるようなカタルシスもを与えている。本来Unityのパーティクルシステムの限界はデフォルトで1000個だそうで、本作がどれほど限界を凌駕してきたのか伺える一幕ともいえる。

この転換期が終わり、終盤に入ると再びプレイヤーの視線誘導やゴール示唆を担う輝く鳥が真上から登場。進行方向を強調するため、飛行機雲のように光輝く粒子が空間に残るようになっている。サポートキャラクターが不在でもカメラワークに代わる空間演出により、プレイヤーの感情を盛り上げながら行動を誘導できるというわけだ。なおレポートでは伝えきれないが、池田氏の解説からは本作に対するすさまじい情熱が迸っていたことを付け加えておく。

最後に末岡氏は、今回の課題について「キャラクターやストーリーがIPの軸になっているコンテンツをVR化する際にぶつかりやすいかもしれない」と指摘。VR化は従来のコンシューマーの手法が通じない場合が多々あり、さらにそれが開発中に判明する場合もある。決断に迷った時は「軸になっている体験は何か」へ立ち戻り、その体験が最大化されるように調整を加えていくのがいいとアドバイスした。

現状VR市場は北米が非常に強くなっているが、今後は中国の市場を中心にアジア圏で伸びるという予測がある。より文化圏の近い市場が拡大し、エンタメ領域で日本が得意としているストーリーコンテンツの需要が高まる可能性に期待できるという。「VRの特性を最大限に活かしつつ、物語への没入感を最大化する」という同社の試みが、VRのストーリーコンテンツの発展の一助になればと締めくくった。

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